お昼に出かけるのが遅くなってしまい、食事処の「開店中」の札を見て中に入ると「今、終わっちゃいました。すいません」とお店の中から声が返ってきます。お店によっては「すいません」が無いところもあって、入ったこちらが悪いかったように感じるのですが、そんなお店はこの周辺の中では安い定食屋さんだったりするので「しょうがないかな」と文句も言わずに次のお店を探します。

 諦めて東京メトロに乗って数駅先まで行きます。さらに時間は過ぎてしまい開いているお店は段々と少なくなります。

 そんな時にふと思い出して、横道に入ってみました。

 お店の前には出てきたばかりの老婦人2人が立っていて、会計しているとお友達を待っているようです。地下に向かう階段を塞いでいるのですが、その間壁にかかっているランチメニューを確認します。ちょうどもうお一人が昇ってきて三人になって歩き出して、階段の入り口が開きました。

 そこには「カキフライ」の文字が……

 今年は暑い時期がつい最近まで続いていて、カキフライが始まっているとは思っていませんでした。料金もこのお店としてはリーズナブルだったので決めました。

 階段を降って入り口に立つと、お店の中は誰もいない雰囲気。

 ここもランチが終わってしまったのかと諦めながらも、ドアが閉まっているのでもなさそうなので、ドアを押して入ってみました。一呼吸置いた頃に奥から制服姿のホールスタッフさんが出てきました。

「もう終わりましたか?」

と聞くと

「大丈夫ですよ」

と真ん中壁側のテーブル席を案内してくれました。

 何枚ものメニューをまとめて出してくれるのですが、気持ちは決まっています。

 一応中を確認するような雰囲気を作ってからランチメニューを指して

「かきフライをお願いします」

と頼みます。

「ランチのコーヒーはホットにしましょうか、アイスにしましょうか」

「ホットでお願いします」

「いつお持ちしましょうか」

 いつもだったら食事と一緒にというのだが、お店の落ち着いた雰囲気に帰る時間が多少遅くなってもいいかなと

「食事が終わってからでお願いします」

と頼みました。

 スタッフさんが奥に戻ってからスマホチェックしているとその間に、何人かお客さんが入ってきます。それも女性が多い。

 遅くまでランチをやっているお店としてこのあたりでは有名なのかもしれません。

 入り口近くのプレートが見え、15時までランチタイムであることがわかりました。

 そうしているうちにカキフライのお皿と、ライス、お椀、それにタルタルソースが専用の器に運ばれてきました。

 さっきとは違うおばあさんでした。オーナーの家族のような雰囲気です。いったん戻って、ソースの容器を持ってきて

「からしが必要ならば、持ってきますが」

そう言われれば試してみたい。

「お願いします」

 テーブル席から陰に隠れたところに調味料が置かれているようで、そこからからしをのせた皿を持ってきました。

 お皿にはカキフライが6つのっていました。

 さっきおばあさんにからしと言われたのが強く残っていて、それだったらソースだよなとソースの瓶を傾けて、一番手前右端のカキフライに染み込むだけの量をかけて、そこにからしの器からほんのちょっとお箸で取ってフライにつけて食べてみました。

 うん。やっぱりカキフライです。

 でも、涼しくなったとはいえ、つい最近まで暑くてしょうがなかった時期です。

 一番いい時期ではなかったようで、ジューシーさにはやや欠けていました。

 それは覚悟の上で試したので文句はないのですが、時期を変えてしばらくしてからもう一度試してみたい。その頃にはランチのカキフライ定食の値段は上がっているかもしれませんが……

 2つ目のカキフライにはタルタルソースの器に指してあった専用のスプーンでたっぷり取ってフライの上にのせます。

 私はカキフライにはタルタルソースです。一番の旬な時期と比べると少し小さめのかきではありますが、それでもタルタルソースとの相性は抜群です。

 そういえば、子供の頃はかきは食べられなかったなと思い出しました。幼稚園か小学校低学年の頃で、家では大人の食べ物だったと思います。それから長い間食べたことはなく、就職して何年か経った頃に会社の近くにあった洋食店で試してみて、カキフライへの評価が変わり、時々食べるようになりました。

 そんなことを考えながら、タルタルソースと普通のウスターソースを交互につけながら食べていきます。

 ご飯も全部食べて、付け合わせの野菜も食べ終わりました。

 さっきのおばあさんがお皿を下げて、コーヒーを持ってきてくれます。

 ごく普通のちょっとだけ苦味のある洋食店のコーヒーです。

 食事を終えると、仕事に戻らなければなりません。入り口のレジに立ってもお店の人はいません。何度か、厨房の方に声をかけてやっとおばあさんが出てきてくれました。

 カードが使えることを確認して、支払いを済ませ、外に出ます。振り返ってお店の雰囲気を確かめます。落ち着いたいい雰囲気です。円形の階段を昇って地上に出て、改めてメニューを確かめます。カレーやメンチかつ、ビーフシチューに、それらを組み合わせたランチプレートもあります。

 たぶん、ランチ難民になったらまた来るかもしれません。そうしたら、追加料金をプラスしてでも特別なランチを頼むかもしれません。

(11月16日、一週間前のランチを思い出して)